国際法務って?

国際法務とは、

一般的には、企業の海外展開での海外取引、契約書作成などの国際ビジネス法務が頭に浮かぶかもしれません。
このWebページでの国際法務とは、国際的な私的法律関係について、どこの国〔地域や宗教など〕の法律を適用して、問題を解決するかを考える法律専門家の仕事を意味します。対象となるのは、私人、つまり個人や会社などですが、個人や家族を中心に考えています。そこで、国籍の取得(出生、届出、帰化)や国籍の喪失(外国国籍の取得・選択、離脱など)も国際法務の範囲にカバーしています。

もっと分かりやすく説明しましょう。

国際的な私的法律関係とは?

国際的な私的法律関係とは、
たとえば、海外での日本人男女の結婚とか海外旅行中に日本人2人がレンタカーで事故を起こしたとか、
亡くなった日本人の父が海外に残した遺産相続とか日本で亡くなった外国人の遺産相続とか、
日本で外国人同士が不注意で交通事故を起こし自動車を傷つけた(不法行為)とかのように、
なんらかの国際的要素を含む私的法律関係のことを言います。

私的法律関係とは、民法や商法などの「私法」(=私<個人・会社>と私<個人・会社>との法律関係を規律する法)によって出てくる関係のことを言い、国と私(個人・会社)との法律関係を規律する「公法」(憲法や行政法など)とは区別されます。

逆に、日本での日本人同士の交通事故とか日本での日本人男女の結婚のように、国際的要素をまったく含まないものは、国際法務というよりも、国内の法律の対象となり、日本の民法などが適用されます。

なぜ、国際法務が必要なのでしょう?

国際結婚の場合

たとえば、日本に長期間住んでいる、20歳の日本人男性と18歳の外国人(中国人)女性の日本での国際結婚の場合を見てみましょう。

日本の民法(731条)では、男性は18歳で女性は16歳になると結婚ができます。

一方、中国の婚姻法(6条)では、男性は22歳で女性は20歳にならなければ結婚できません。

さて、この20歳の日本人男性と18歳の中国人女性は、日本で結婚できるのでしょうか?

日本の民法を基準にすればいいの?
いや、中国の婚姻法を基準にしなけりゃいけないの?

それぞれの国の法律に従えば、
日本人男性は結婚可能だけど、中国人女性は結婚できない。
ということは、結婚できないの?

ますます、こんがらがってきますね。

そこで、困った国は、「国際私法」という法律をつくりました。

国際私法は、別名「抵触法」と言って、それぞれの国の法律が衝突(抵触)しているものを解決する法律だからです。

結論は、20歳の日本人男性と18歳の中国人女性は、結婚できます。

国際結婚の成立は、それぞれの国の国際私法に従うものだからです。

日本の国際私法によれば、「婚姻(結婚)の成立は、各当事者につき、その本国法による」(「法の適用に関する通則法」24条1項)となっています。

この場合の本国法とは、日本人男性は日本の民法で、中国人女性は、中国の婚姻法ではなく、中国の国際私法ということになります。この「本国法」の解釈を間違っているホームページ(弁護士や行政書士のサイトなど)がかなり多くありますので、注意しましょう。

中国の国際私法は、「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」という名で、こう決めています。

「結婚の要件については、当事者の共通常居所地の法律を適用し、共通の常居所地の法律がないときは、共通国籍国の法律を適用する。共通の国籍を持たず、一方当事者の常居所地または国籍国において婚姻を締結したときは、婚姻締結地の法律を適用する」(21条)。つまり、3段階の法律適用を決めていて、この場合は、当事者の共通常居所地の法律=日本の民法となり、結婚ができることになります。あとは、届出などの形式的手続きが整えば、結婚が法的に成立します。

海外での日本人2人での事故

たとえば、ヨーロッパに旅行中の日本人2人が、ドイツでレンタカーを借りて、Aさんが運転中、自分の不注意(過失)で事故を起こしました。同乗の友人Bさんがケガをしたため、日本に帰国。Bさんは、Aさんに対して損害賠償の請求をしました。
この場合、日本の法律(民法)に従うの、それとも、ドイツの法律(民法)に従うの?
結論は、ドイツの民法が適用されます。これも、日本の国際私法に定めがあるためです。

日本の国際私法では、
「不法行為によって生じる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による」(「法の適用に関する通則法」17条)となっています。
不法行為とは、故意や過失など違法に他人に損害を与える行為で、上記の運転事故などが含まれます。この場合、Bさんへの損害を賠償させ、AさんとBさんの間の公平を図る制度になっています。加害行為の結果=同乗者Bさんのケガが発生した地の法は、ドイツ法になります。

このように、私<個人・会社>と私<個人・会社>との国際的な法律関係を規律する私的な法律関係は、原則として日本の国際私法によって選択される法律(準拠法)によって決められることになっています。もちろん、日本が承認したウィーン売買条約のような国際統一法(国際条約)や禁輸措置法規・労働組合法7条1号などの国際的強行法規、租税法や刑法などの公法は、国際私法に優先されます。

 


国際相続の実際

かなり長期間、いつも日本に住んでいる中国人陳さんが、先日遺言もなく、日本で亡くなりました。日本に土地と建物を持っていましたが、お母さん、奥さんと子供1人います。さて、陳さんの遺産相続は、日本の法律、中国の法律、どちらの法律で遺産相続はなされますか?

日本の民法では、奥さんが遺産の2分の1、子供さんが2分の1を相続します。(民法887条1項、890条)
中国の相続法では、第1順位が配偶者・子・父母となり、奥さん3分の1、子供さん3分の1、お母さん3分の1となります。(相続法〔継承法〕10条)

日本の法律では、お母さんには相続ができませんが、中国の法律では、お母さんも相続できます。

さて、困りました。どっちの法律を採ればいいの?

そこで、再度国際私法が登場します。

日本の国際私法では、
「相続は、被相続人の本国法(陳さんの中国法)による」(「法の適用に関する通則法」36条)となっています。
では、中国の相続法でいいんですね?

そうはいきません。もうお分かりのように、中国の国際私法によります。

中国の国際私法「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」は、相続についてこう決めています。
「法定相続については、被相続人の死亡時の常居所地の法律を適用する。ただし、不動産の法定相続には不動産所在地の法律を適用する」(同31条)。
つまり、土地・建物の法定相続は、不動産所在地の法律=日本の民法によって判断されることになります。
つまり、奥さんと子供さんが遺産のそれぞれ2分の1を相続することになります。
専門用語では、これを「反致」renvoiと呼んでいます。

国籍の取得、帰化とは?

国籍の取得(出生、届出、帰化)や国籍の喪失について、ひとつ実例を見ましょう。
「帰化」とは、外国人(外国籍の人)が日本国法務大臣の許可を得て、日本国籍を取ることです。
どんな人が、どのような手続をへて、帰化できるのでしょうか?

(図の拡大→マウスをのせてクリック)